My important place【D.Gray-man】
第42章 因果律
全身に緊張が走る雪に対し、神田は表情一つ変えなかった。
じっと無表情のまま、雪を黒曜石のように黒い瞳で捉える。
そしてやがて、ふいとその目は逸らされた。
先に視線を逸らしたのは神田。
ただそれだけのことなのに、雪は身が竦むような感覚に襲われた。
好き嫌いがはっきりしている神田は、他人への態度も極端なことが多い。
出会った頃は重ならなかった視線も、想いが通じてからは真っ直ぐに向けられるようになった。
それこそ時には視線が痛い程に。
神田との距離が近付いて知らなかった表情を見るようになって、視線を外すのは時に照れ隠しや気まずさ故だとも知った。
けれど大事な時には必ず真っ直ぐに向けられていたものだ。
照れや気まずさからではないだろう、その些細な行為が雪の足元を揺らがせた。
心と体がぐらぐら揺れる。
失意に似た感覚。
「…雪さん…」
そんな雪へ、不安げな声で呼びかけたのはアレンだった。
「大丈──」
「アレンくん」
続く言葉を遮ったのはコムイ。
「雪くんとは僕が話すから。ティムキャンピーを貸してくれるかい」
「……わかりました」
半ば浮き気味になっていた腰を再びソファに下ろして、諦めたようにアレンが頷く。
アレン達と接触はできないと、雪はリンクに聞かされていた。
アレンもまた同じことをコムイに言われたのだろうか。
アレンの肩に乗っていたティムキャンピーが、雪の頭上を一度旋回してコムイの机に降り立つ。
その机を挟んで、雪はコムイと向かい合った。
ソファの横を通り過ぎる際、もう一度神田へと目を向ける気力はなかった。
コムイの顔も真っ直ぐには見られなくて、微かに俯く。
仮であっても戦犯被疑者と定められた。
そんな自分は彼らの中で、不審人物という扱いなのだろう。
得体の知れない、もの。