My important place【D.Gray-man】
第42章 因果律
マリの言う神田の可笑しな様子とは、どんな状態だったのだろうか。
心配してくれていたのか。
ただただ驚いていたのか。
それとも、憤りを感じていたのか。
「……」
考えれば考える程、嫌な方向にしか向かわない。
掌に浮かぶ汗を雪はぎゅっと握り締めた。
「雪?」
不安定に揺れ動く心。
耳に届く不規則な心音にマリが僅かに眉を寄せると、スッと雪の前に人影が立ち塞がった。
「司令室へ向かわねばならん。無駄話はそこまでだ」
緋色の装束マントを翻し、雪を視界から遮るように立つはマダラオ。
「おいおい、無駄話って。そういう言い方はないだろうよ。これだから中央庁の連中は──」
「ごめんジジさん。マリも。私もう行かなきゃ」
握った拳に力を入れる。
咄嗟にジジの言葉を遮ると、雪は慌てて皆に向かって頭を下げた。
「ごめんなさい、時間掛けて。行きますから」
「……」
マダラオにもそう伝えれば、無言の応えが返ってくる。
「雪ちゃん、お仕事済んだらゆっくり休んでね」
「任務、ご苦労様である」
「うん。ありがとう」
労いの言葉を向けてくれるミランダとクロウリーにも、にこりと笑みを返して、雪は今度こそ背を向けた。
振り返らずに去る姿を、足音と心音だけで感じ取る。
「……」
光の宿っていない盲目の目で見送るマリの顔は、難しい表情を浮かべていた。