My important place【D.Gray-man】
第42章 因果律
「──っ」
はっとした。
目を見開くと同時に、がばりと体を跳ね起こす。
「ティ…!」
片手を縋るように伸ばして、見えた先には何もない。
呼ぼうとした名は、何故かそれ以上口にできなかった。
(……あ、れ…?)
何かに縋ろうとした。
優しい声で諭してくれた、面倒臭そうにしながらも傍にいてくれた、その存在を引き止めたくて。
(…誰…だったっけ…)
なのに思い出せない。
求める相手のいない先に、空しく手は差し出されたまま。その手を見つめて、くしゃりと自身の前髪を握り込んだ。
(なんで…)
何故いつも朧気なのだろう。
何かを思い出そうとして、何かが頭に引っ掛かる感覚。
そんなことが度々あった。
最初は気にしていなかったが、最近はそれが単なる偶然とは思えなくて。
何かを暗示している気がする。
なのに自分は肝心なことに気付けないまま。
(なんで…っ)
ぐしゃりと、前髪を握る手に力が入る。
「起きましたか」
周りを見る余裕なんてなかったから、気付くのが遅れた。
「……リンク、さん…?」
はっとして顔を上げる。
見えたのは、金色の頭をした監査役の彼。
それと等しく、金の色を宿した複数の札。
「…これ…?」
「すみません。貴女の出方がわからない以上、こうするしかなかったので」
人差し指と中指を立てて、印を切るように口元に添えている。
そんなリンクの動作から、この目の前にある札達は彼が発動させているのだと悟った。
病室だろうか、真っ白な部屋の自分が寝ていたベッドの周り。宙に浮いた金色の札がそこに一列に並び、ベッドを囲むように張り巡らされていた。
体には触れていないから何も影響はない。
しかしその札の姿を見ると思い出してしまった。
まるで生き物のように体に張り付き、自由を奪っていったあの大量の札達を。
ぞくりと、雪の背に悪寒が走る。