My important place【D.Gray-man】
第42章 因果律
「俺のことはまた忘れたっていいから、これだけは覚えてろよ。大事なことだ」
「……んで」
「ん?」
「…なんで、私にそこまで…してくれるの」
人の本質を見抜く目利きなんて持っていないが、それでも雪にはわかった。
この言葉も手を差し出してくれた時の言葉も、偽りのないティキ本人の言葉だ。
それと同時に疑問が浮かぶ。
ティキとの出会いを思い出せたけれど、彼とは出会ってまだ数回。
何時間も深い話をして言葉を交え、意思疎通をした訳でもない。
なのに何故、ここまで自分の為に行動してくれるのか。
純粋にわからなかった。
そんな経験、したことがなかったから。
「…家族だから」
「え?」
「って言えば聞こえはいいけど。ちょっと違うかな」
「…?」
意味がよく理解できていないのだろう。少し困惑気味に見上げてくる雪の顔に一つ笑って、ティキは首に添えた手に微かに力を込めた。
促されるままに上がる雪の顔。
そこに身を屈めて顔を寄せた。
「強いて言うなら…人だから。かな」
耳に唇を寄せて、微かな声で囁く。
ゆっくり顔を離せば、見えた顔は相変わらずの困惑顔。
そんな雪の反応にティキはまた一つ笑った。
最初に興味を持ったのは、雪のその人間らしさ。
迷い立ち止まって葛藤する。
なんとも弱い人間らしい心。
そこから雪のことを見るようになり、新たに知り得ていった色んな一面。
面白いとしか思っていなかったものが、気付けば惹かれていた。
同じノアの一族だから、という思いも勿論ある。
ただしそれだけではこんな思いは生まれない。
些細で小さなパズルが組み合わさって、気付けば形成されていた自分の思い。
形なんてなかったあやふやなものが、勝手に育ち形を成した。
それもまた人間のようだと、ティキは自分の思いにも笑ってしまった。