My important place【D.Gray-man】
第42章 因果律
腰を上げるティキに、思わず雪も立ち上がる。
立ち並べばわかる、その身長の高さ。
高身長なラビをも越える高い背丈。
首がぐんと曲がって、お互いの距離の近さを改めて知った。
(…あ。これ)
前にも一度、似た思いを感じたことがあった。
あれも確か、ティキとこんな暗い世界で出会った時だ。
「…ティキと会う時は、いつも真っ暗闇だね」
「怖い?」
「…ううん」
思わず呟けば、軽く首を傾げて問いかけてくる。
褐色の肌に金色の目。
あまり見ない容姿をしているのに、その姿はなんだか見ていると安心させてくれた。
〝自分一人だけじゃない〟
そんな安心感。
「ティキと話してると、あっという間だし。一人でいるより、二人がいい」
「……」
「もう時間なんでしょ? きっと」
(前にもあった。同じこと)
時間だと言って、目の前から消えたティキの姿を思い出す。
なんで忘れていたのか。そう思う程に、はっきりと頭に思い浮かんだ。
苦笑混じりに問いかける雪に、黙ってじっと見下ろしていたティキが、褐色の手を不意に伸ばした。
触れたのは、雪の細い首の後ろ。
「…雪。世界ってのは思ってるよりもずっと広いもんだ。見えていない所も沢山ある。角度や考えを少し変えるだけで、今までのもんが全く違って目に映ることもある」
「?…なんの話?」
「雁字搦めなんだよ、今のお前」
くしゃりと髪を優しく撫ぜて、指に絡ませる。
「お前の命はお前のもんだ。今立っている地も、お前自身が踏みしめているもの。他の誰でもない。後にも前にも敷かれてるのは、お前の為の道なんだよ」
飄々と笑ってはふざけたことを口にして、意図の読めない言葉ばかり投げかけてきた。
そんなティキの口から静かに届く、今までとは違う言葉。
「だから自分の為に道を歩け。周りに縛られるな」
感情の起伏は読めない淡々としたもの。
けれどその言葉は確かに、雪の中へと舞い込んできた。
「……」
上手く言葉にならなくて、反応を返せぬまま高い位置にある顔をじっと見つめてしまう。
胸の奥底にある不安や混沌としたものを、優しく撫でられたような気がした。