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My important place【D.Gray-man】

第42章 因果律



 口元に笑みを称えて、するりと流暢な言葉で紡がれた褒め言葉。
 自然とそんな言葉を吐き出せるのは、それだけ言い慣れてる証拠なのか。
 以前は気障ったらしい仕草で手の甲に口付けられ、ティキのそんな慣れた紳士行為に鳥肌が立った。

 アレンの紳士的な行為とはまた違う。
 上辺を取り繕ったような偽者の優しさ。

 しかし今の彼からはそんなものは感じられなくて、雪は頬が熱くなるのを感じた。



「…っ何、急に」

「あ。照れてんの?」

「照れてませんッ」



 顔を寄せて笑いかけてくるものだから、自然と後退ってしまう。
 そんな雪の反応にも、ティキはニコニコと笑みを返すだけ。

 彼女の心は雁字搦めだ。
 神田ユウに縛られて、上手く身動きが取れていない。
 しかしその想いだけで埋まってしまう程、狭い器ではなかったらしい。


(まだ救う道はあるか)


 道は閉ざされた訳ではない。
 きっと拓くことはできる。

 ついティキの口元の笑みが深くなる。
 とそこへ、不意に上からずしりと空気が圧してきた。
 急かしてくる無言の意だろう。仕方ないと、顔を上げてティキは応えることにした。



「ああ、わかってる。もう帰っから」

「は? 帰る?…って誰と話してんの?」

「この世界の創造主サマ」



 ティキの顔と見上げた闇を交互に見比べて、胡散臭そうに雪が問いかけてくる。
 それににっこりと笑顔で返せば、更に疑問符を頭に幾つも雪は並べるだけだった。
 しかし細かに説明する気はない。
 これ以上は魔眼の持ち主である彼でも、雪の意識を沈めておくことはできないのだろう。

 もう時間だ。

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