My important place【D.Gray-man】
第42章 因果律
「……」
「……」
再び沈黙が訪れる。
その沈黙に耐え切れず、反応のないティキの顔を恐る恐る雪は伺ってみた。
と。
「…何その顔」
「……」
見えたのは、思いっきり呆れた顔。
どこからどう見ても無言の呆れ顔。
「本気で言ってんのそれ」とでも言うかのような金色のジト目が、チクチクと肌に突き刺さるように伝わってくる。
そんなに阿呆なことを言っただろうか。
思わず突っ込めば、彼はあっさりと首を横に振った。
「や。阿呆なこと言ってんなーって」
「って言ったやっぱり! 阿呆って! 人が一生懸命吐き出した思いを阿呆って!」
「や。だって」
(阿呆だろ)
「……」
「だから顔で感情伝えてくるのやめて」
再度無言で見れば、即答で捲くし立ててくる。
さっきまでのぎこちなさなんてどこへやら。そんな雪に、やれやれと肩を落としながらティキは溜息をついた。
(自分でも半信半疑なのは、自覚してる癖によ)
名前を呼べば気付いてくれるかもしれない。
思い出せば応えてくれるかもしれない。
それは全て雪の願望だ。
そして本人もそれは自覚している。
だから自信のない拙い声でしか吐き出せない。
それでも尚、目の前にある手を握らずに朧気な記憶の彼に縋るのは。
(…雁字搦めだな)
それだけ縛られているからだ。
神田ユウという存在が、雪の心に雁字搦めに絡み付いて捕えている。
(厄介だなー…こりゃ)
手持ち無沙汰に頭を掻きながら、ティキはワイズリーの言葉を改めて実感させられた。
人の思いは時として酷く脆いものだが、時として何より強く勝るもの。
そんなあやふやなものだから、興味も湧くのだが。
しかしそれが今は、
(邪魔だな)
雪の道を阻む厄介なものでしかない。