My important place【D.Gray-man】
第42章 因果律
明確なことは何もわかっていないけれど、これで終わりだと言われて「はいそうですか」なんて、自分の人生に幕引きできるはずがない。
この体は両親に貰った唯一のものだ。
この手足と胴と頭と心臓と。
形見も何も残せなかった両親が、唯一自分に残してくれたもの。
それを易々と手放す気はない。
「思うはずない」
今一度強く否定する。
元々、自分は弱いからと悲観するのは嫌いだった。
自殺願望など最初から持っていない。
「なら俺を選べよ、雪。この世は選択の連続だ。そこに後悔はあっても、正解不正解はない。お前の選んだ道を"間違い"だなんて言える奴はいねぇから」
目の前に差し出される手。
褐色の長い指に大きな掌。
その手は、この夢の中で何度も見ていた手に似ていた。
褐色の、自分のものではないような自分の手。
見る度に悲しくなっていたのに、何故か今はどこか懐かしさを感じる。
(この手を取れば、此処から抜け出せるの?)
わからない。
けれどなんとなく、そんな気はした。
「ほら」
「……」
促されるままに、握っていた拳を解いて恐る恐る手を伸ばす。
真っ暗な闇の中で、道標のように差し出された手。
光の中へ消えていく黒髪の彼のように、背を向けてはいない。
ちゃんとこちらを向いて、ちゃんと名前を呼んでくれる。
その姿勢と同じように、ティキの掌は温かい。