My important place【D.Gray-man】
第42章 因果律
「雪のいる"黒の教団"って所もそうだ。その目で何人も見送ってきただろ。そいつらの屍を踏み越えて生きてきたんだろ」
「………うん」
エクソシストやファインダー仲間。
教団の面々に、任務先で出会った人々。
その背を見送り、二度と会えなくなった者は沢山いる。
ずっと抱え続けていた両親もまた同じだ。
教団の為の手足となり、そして教団の為に塵となって消えた。
「そうやって土台にしてきた命がある。で、今度は雪がその土台になるってだけだ」
「え?」
思いもかけない言葉だった。
目の前の顔を凝視すれば、表情一つ変えることなくティキはさらりとそれを告げた。
「今度はお前が踏み潰される番。教団にいれば、お前はあそこの餌にされる。だから追いかけたって良いことなんて一つもない」
「……なんで…」
「なんで? 聞かなくてもわかるだろ?…わかってるはずだ」
「……」
頬を包んでいた両手の温もりが離れる。
それでもティキの顔から目を離せぬまま、雪は凝視し続けていた。
ドクリドクリと、心臓が嫌な音を立てる。
わからない。けれど知ってる気がした。
自分の終着点は此処だ。
真っ暗な闇の中、右も左もわからない。
幼い頃に足を怪我して途方に暮れていた、そんな迷いとは違う。
わかっている。理解している。
知らなかったなんて、言うつもりだったなんて、今更そんなこと伝えても、もう。
「それでいいの? 献身的に身を捧げて、最後は餌にされて終わるのが雪の人生?」
献身的かどうかなんてわからないけれど、確かに教団にずっと身を捧げてきた。
だからと言ってそこに見返りを求めていた訳ではないけれど、生きる場所は求めていたのかもしれない。
そして、そこで見つけられたものがあった。
手に入れてしまったから。
知ってしまったから。
だから今こうして、心は潰されている。
「…いいなんて…思ってないよ」
ぐっと雪は拳を握り締めた。