My important place【D.Gray-man】
第42章 因果律
何も言い返せず押し黙ってしまう雪を見て、ティキの金色の目が優しく細められる。
「それでいいんだよ、雪。人間ってのは弱い生き物だから、一人じゃ生きていけねぇの。近くにいる奴に縋っちまうのも、優しくされれば頼っちまうのも、人間の性みたいなもんだ」
「…違…」
近くにいたから縋ったんじゃない。
優しくされたから頼ったんじゃない。
そう言いたいのに、朧気な記憶では言い切れなくて。
弱々しく首を横に振る雪の顔を、止めるように褐色の大きな両手が包み込んだ。
「いいんだよ、それで。恥ずかしいことでも変なことでもない。俺は人のそういう"弱さ"、好きだよ」
「……」
好きだと紡ぐその音色は、酷く優しい。
偽りなんてない温かい言葉。
自然と視線を上げれば、近くにある金色の瞳と絡まった。
「だからさ、辛いならやめちまえばいい。俺なら傍にいてやれる。涙も拭ってやれる。あいつを追いかけても、良いことなんて一つもねぇよ」
「…なんでティキにそんなこと、わかるの…?」
「わかるさ。学はねぇけど、経験は雪より長いからな」
一度絡まった視線は外せなくて、おずおずと問いかける。
そんな力のない雪の心を労わるかのように、優しくティキは応え続けた。
「人の命は平等じゃない。そしてこの世もな。だから世界は回っていられる。そうだろ?」
「……うん」
その考えは理解できるもの。
だから雪は頷いた。
この世の全ての命が平等であったなら、もしかすれば憎しみや悲しみは生まれないかもしれない。
しかし世界は破綻するだろう。
何かの誰かの犠牲があって、誰しもその上に立っているのだから。