My important place【D.Gray-man】
第42章 因果律
「……」
「……」
沈黙。
「……はい?」
それを破ったのは、間抜け声。
思わず顔を上げて真正面にあるティキの顔を、まじまじと見る。
そんな雪の反応は予想通りのものだったのか、ティキは気にすることなく軽く首を傾げて再度問いかけた。
「だから、俺にする? そんなに嫌ならさ。やめちまえばいい」
「やめるって…何を…」
「あいつを想うこと」
薄く口元に笑みを浮かべて、長い褐色の指が雪の頬に触れる。
頬を撫でて目尻に上がると、涙の痕跡を辿るように優しく触れてなぞっていく。
「無理する必要なんてない。人の心は永遠じゃない、移ろいゆくもんだ。あの男だって元は他の誰かを想ってた。その想いの一部が移ろい雪に向いただけ。所詮そんなもんさ」
「……」
ティキの言葉を全ては理解できなかった。
"あの男"が誰なのかも思い出せなかったから。
しかし確かに、胸がずきりと痛んだ気がした。
所詮はそんな想いだったのだと諭されて。
「ち…違…」
「違わねぇよ。それが人間だ。"永遠の愛"なんてもん、人が夢見て作り出した言葉だ。現実にそんなもん存在しねぇよ」
「…そんな…こと…私は、両親のことを一度だって…忘れたこと、ないよ…」
「忘れたことは、だろ? その思いは? 変わらず一番に向いてる? 他に大事なもんはできなかった?」
「……」
優しく問いかけるティキの言葉を、雪は否定できなかった。
思い出せなくても、両親と同じに譲れないものを確かに抱えていた。
順位なんて付けられない、比べられないものを。