My important place【D.Gray-man】
第42章 因果律
"終わり"だと感じれば、まるでこの暗い世界が自分の終着点のようにも思えた。
まるで今の自分の心を映す鏡のように。
前も後ろも右も左も上も下も何もない。
立ち往生で、身動きすらできない状態。
黒の教団でも長い間一人立ち止まったままでいたけれど、こんな真っ暗闇な世界ではなかった。
譲れないものはあったから。
両親という抱えていたい人達がいたから。
なのに今は、そんな存在さえ消えてしまったかのように感じる。
強い想いで抱えていた人がいたはずなのに。
譲れない人がいたはずなのに。
その人の名も姿も朧気で、思い出せない。
「……」
何度もその名を呼ぼうとしては、言葉にならず。
何度も置いていかないでとその背に縋ろうとしては、ただ見送ることしかできず。
何度も何度も絶望に叩き落とされる、光と花と水に囲まれた、この優しくも冷たい世界。
何度そんな世界に心を潰されればいいのだろう。
「……もう……嫌だ…」
抱いた膝に顔を押し付ける。
ティキのお陰で涙は引っ込んだけれど、この暗い世界は雪には何も変わらない。
愛に溢れた彼と彼女の纏う光は、目に痛いだけで雪の体を温めてはくれない。
見せ付けるように光り輝いては、雪の心を焦がせるばかりで呆気なく消えていく。
何度もそんなことを繰り返した。
もう羨む気持ちも望む想いも、疲れてしまった。
「……」
そんな体を縮めて幼い子供のように嘆く雪を前に、ティキは黙って目を向けたまま。
一度、ついと顔を上げて暗い世界を見上げた。
そして咥えていた煙草を摘むと、徐に暗い地面に押し付ける。
ぐり、と強く揉み消せば、ゆっくりと暗い闇の中を立ち昇っていた白い煙が消える。
沈黙と静寂。
先に動きを見せたのはティキだった。
向き合うように雪の正面へと移動すると、屈んで目線の高さを合わせる。
膝に顔を埋めている雪の顔は見えない。
もう何も咥えていない口を開くと、ティキはそんな雪へはっきりと問いかけた。
「じゃあ、俺にする?」