My important place【D.Gray-man】
第42章 因果律
「今は責めるより、この先をどうすべきかだな。…捕まっちまったらなぁ…逃げ出すのは難しいだろうし…。俺学ねぇから、こういう頭使うこと苦手なんだよ」
腕組みをして、うーんと頭を捻りながら難しい顔をする。
咥えた煙草の端をがじがじと噛みながら悩む様は、気障ったらしくスマートな一面とは程遠い。
そんななんとも砕けたティキの雰囲気に、雪はきょとんと目を止めると、ふと顔を綻ばせた。
「…っふ」
「………何笑ってんの」
「いや、なんか。体の力が抜けたというか。つい」
口元に手を当てて堪えて笑う雪を、ティキの目が呆れ見る。
「あのなぁ。お嬢さんの為に頭捻ってんのに。本人がそんな呑気でどうすんの」
「ごめんごめん」
ったく、と悪態突きながらも、もう涙の痕跡も見えない雪の表情に自然とティキも目元を緩めた。
よかった。
自然と感じたのは安堵の気持ち。
女の涙は特別好きでも嫌いでもない、ティキにとっては興味の対象ですらないもの。
しかしこうして教団の者の為に苦しみ涙を零す雪は、見ていて良い気分ではなかったから。
「で。ほーんと、どうすっかなぁ。割と気楽に考えていられることでもねぇからな…」
仕切り直すように。肩を落として脱力気味に零すティキに、笑い堪えていた雪の表情が止まった。
そうだ。
よくはわからないけれど、この漠然と心を覆う暗く重い"なにか"は消え去っていない。
寧ろ遠慮なく心の節々を貫いて、穴を空けていくようだった。
その穴から零れ落とせと、培った想いを捨てさせていくかのように。
「…どうしようもないよ」
ぽつりと俯きがちに零した雪の儚い声に、ティキの目が止まる。
「もう、どうしようもない。もう…手遅れだから」
(何が?)
自分でもよくわからない。
でも漠然と感じる絶望感。
「全部……もう…」
終わりだ
そう、あの時感じてしまったから。