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My important place【D.Gray-man】

第42章 因果律



「泣いてんの?」



 思わず問えば、はっとしたように雪はゴシゴシと目元を乱暴に拭った。
 慌てて目元を拭い去ろうとも、濡れた瞳は一瞬でもティキの目に捉えられていた。それだけで充分だ。



「…さっさと逃げねぇから」



 女の涙の扱いには慣れている。
 しかしそれを見る度によく吐いていた甘い砂糖菓子のような台詞も、羽毛のように温かく包み込む行動も、ティキの中には生まれなかった。
 そんなものを雪が望まないのは以前出会った時に学んだし、ティキ自身優しさで受け止めてやる気はなかった。

 その口から出たのは本音。
 深い溜息混じりに、呆れた声を漏らす。

 目に見えてわかってたことだ。
 雪自身もノアとしての自覚があったから、少なからず理解はしていただろうこと。
 早くに見切りを付けていれば、こうして涙を流す程苦しむこともなかったはずだ。



「逃げるって…何が」

「そのまんまの意味。さっさと見切りつけてりゃよかったのに。わかってたことだろ」

「……」



 さっさと教団から逃げ出していれば、あんな形で神田達に正体を突き止められてしまうこともなかった。
 なのに起こってしまったのは、ティキ側としては最悪の状況。

 此処は雪の夢だ。
 アレンの中にある14番目のメモリーに触れて、無理矢理に"怒"のメモリーをこじ開けられたとしても、それは一瞬だけのもの。

 まだノアとしての覚醒には至っていない。
 となればこの夢の中の雪も、まだティキ達への記憶は朧気なもののはず。

 それでも言わずにはいられなかった。
 自分で自分の首を絞めている雪の行いに。
 エクソシストとノアは相容れない。一生交わらないものだ。
 教団で働いているのなら、雪自身もそれを理解しているはずなのに。


(……"人間"、だからか)


 咥えた煙草に指を添えて、溜息混じりに煙を吐き出す。

 ノアであっても、それ以前に雪もまた"人"だ。
 説明のつかない行動を起こすのは仕方のないことなのかもしれない。

 何よりティキ自身、人のそういうあやふやな弱い心を好いていたから。
 つい責めてしまう気持ちと、妙に納得してしまう心が混ざり合う。


(…面倒くせ)


 悶々とした複雑な感情だった。

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