My important place【D.Gray-man】
第42章 因果律
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「……はぁ」
アレンと神田が去った廊下を見つめていた視線を、足元に落とす。
自然と零れたのは溜息。
そのまま静かにリンクはベッドサイドの椅子に腰掛けた。
白いシーツに寝かされ、白い包帯に巻かれた姿。
微かな反応も示さない雪は、深い眠りについているのか。
「…早く起きて下さい」
無意識に呼びかけていた。
マダラオの手によって強い衝撃を与えられたから、目覚めに時間が掛かっているのだろうか。
それとも彼女のノアとしての体が意識を堰き止めているのか。
(どちらにせよ…早く、目を覚まさないと)
彼女が起きないことには、誰も結論など出せないだろう。
教団も自分も、そして先程の二人も。
「…手遅れになる前に」
ぽつりと囁かれた小さなリンクの声。
白い病室の中でその声に反応する者は、誰一人いなかった。
「……」
じっと蹲って体を小さく丸める。
抱いた膝に顔を埋めて、視界を世界と遮断する。
目の前に広がるのは真っ暗闇。
彼女を取り囲む世界と同じもの。
くすくすと、笑い声がする。
「…?」
ゆっくりと顔を上げる。
蹲ったまま、ぼんやりと辺りを伺うように。
遮断していた世界と同じ、真っ暗闇。
その先に微かな光が見えた。
闇に慣れてしまっていた瞳には眩しくて、つい堪えきれなくて目を細めてしまう。
眉を寄せて光を遮るように、額の上に手を翳す。
くすくすと、可憐に笑う声がする。
光が強くなる。
ぽたりと落ちる雫の音。
暗い闇の世界に、形を成していく景色。
ぼんやりと象っていた周りのその景色の線が、段々と濃くはっきりとした輪郭に変わっていく。
見えたのは、頭を凭れるようにして咲く萼や花弁。
その葉先から落ちる水滴が、ぽたりと足元の水場へと飲み込まれていく。
──…ああ、
きゅっと唇を噛み締めて、雪は目の前の光景に顔を顰めた。
──また"これ"だ