My important place【D.Gray-man】
第42章 因果律
アレンの異変は、もしかしたら雪に何か影響を与えたのではないか。
そんな不吉な予感が神田の中にはあった。
「テメェの所為だろうが。素知らぬフリなんてするんじゃねぇよ」
「…なんのことですか」
「ァあ!?」
シラを切るようなアレンの態度に、カッと怒りが増す。
その感情のまま襟首を掴んで引き上げれば、身長差のあるアレンの視線が上を向いた。
神田の行動に驚きつつも、すぐにアレンもキッと目の前の人物を睨み返す。
「一体なんだよ…! 雪さんのことなら僕だって心配してる! 自分だけなんて思うな!」
普段の敬語の外れた物言いは、それだけ本音だということ。
そんなアレンの剣幕に、神田は襟首を掴んだまま目を見張った。
(こいつ……憶えてねぇのか)
自分の体の異変のことを。
至近距離で攻撃を放とうとしたレベル4を止めたのは、エクソシストとしてのアレンではない。
恐らくノアとしてのアレンだ。
しかしアレン本人はそのことに気付いていない。
「……チッ」
アレンの中から滲み出たノアの片鱗。
その事実を吐き出しそうになって、神田はぐっと口を閉じた。
舌打ち一つで手を離す。
もうその目はアレンを映してはいない。
気付いていないのなら、わざわざ言う必要もない。
神田の口を止めたのは、アレンへの当て付けでもなんでもなかった。
どうでもよかった。
神田にとって憎しみの対象は教団で、その他は二の次だ。
教団の為にアレンのノアの片鱗を報告する気など到底ない。
アレンがどうなろうが、教団がどうなろうが、どうでもいい。
この治まらない苛立ちの元である、雪のこと以外は。
「……神田」
完全に背を向けた神田を目に、乱れた襟元を抑えてアレンは溜息をついた。
神田と雪の関係は知っている。
それ故の葛藤も、それなりに理解はしているつもりだった。
「気持ちはわかりますから…少し、落ち着いて下さい」
「………ょ」
「え?」
背を向けたまま呟かれた声は微かなもので、アレンの耳には届かなかった。
聞き返せば、珍しく神田は再度口を開いた。
「テメェなんかにわかって堪るかよ」
はっきりと拒絶の意を示して。