My important place【D.Gray-man】
第42章 因果律
上層部の教皇はルベリエのように頭の堅い者が多いが、教団での最高責任者はコムイだ。
彼のような柔軟な性格を持ち、エクソシストを道具ではなく人としてきちんと見ることのできる人物なら。
何かしら、最善の道を見出せるかもしれない。
それは藁にも縋るようなか細い希望だったけれど、頼らずにはいられないものだった。
「ちゃんと伝えてきますから。リンクは雪さんを見ていて下さい」
苦笑混じりに優しく念を押される。
それ以上何も言えずにいるリンクから視線を外し、アレンは病室内の金色のゴーレムを探した。
師から譲り受けた特殊なゴーレムは、いつの間にかアレンから離れていた。
どこに行ったのかと視線を巡らせれば、輝くような金色の体はすぐに見つかった。
雪の傍。
静かに眠るその顔にぴたりと寄り添い、じっとしている。
「…ティム」
それはまるで、クロスの血痕に寄り添い離れようとしなかった、あのティムを見ているかのようだった。
今後の彼女のことを心配しているのか。離れようとしないティムに、アレンはきゅっと唇を噛み締めた。
「ティム、来い。お前がいないと報告ができない」
ティムキャンピーが記録しているであろう、魔導結界内での一連の映像。
それをコムイに見せるのが、一番わかり易く且つ的確な報告手段だ。
凛とした声で強く呼ぶアレンに、ぴくりと長い尾を揺らしたティムは一度沈黙すると、ぱたりとその羽根を揺らした。
大人しく肩に乗る金色の丸いボディを一撫でして、アレンは今一度雪の姿を見つめる。
(雪さん…)
思い浮かぶのは、暗い夜の書庫室で一人。
大量の資料や文献に囲まれて調べものをしていた、華奢な背中。
あまりに真剣な表情だったからすぐには声を掛けられなくて、結果空腹の余り悲鳴を上げた自分の胃袋の音で気付かれてしまった。
そんなアレンに驚きはしたものの、嫌な顔一つせずに調べものやティム探しに付き合ってくれた。
あの時、自分と同じにノアのことを調べていた彼女は…もしかしたら、自分と同じ不安を抱えていたのか。
「……」
わからない。
憶測だけでは彼女の心は掴めない。