My important place【D.Gray-man】
第42章 因果律
黒曜石のように黒く、しかし何も映し出していないように見える神田の瞳。
それがアレンからベッドに寝かされている雪へと移る。
しかしほんの一瞬だけだった。
すぐに逸らされた瞳はもう何も映していない。
「…コムイに呼ばれた。行くぞ」
「はい」
「報告でしたら私も──」
「リンク」
背を向ける神田に続けば、リンクが後を追ってくる。
それをアレンは言葉で制した。
「君は雪さんを見ていて下さい。傍に誰かいないと」
雪の傍には監視として誰かがついていないといけない。
それも雪の状況を理解している人物が。
となると、現時点ではアレンと神田とリンク、そしてマダラオとテワク以外にはいない。
元々監査役を担っているリンクが最適だと頼み込めば、しかし険しい表情を返されてしまった。
「しかし…貴方達二人だけに今回の報告を任せるのは…」
リンクの目から見れば、アレンと神田は雪とはそれなりに密接な関係にあった者達。
その者達が己の私情を挟まずに、客観的な報告などできるのだろうか。
一抹の不安が浮かぶ。
「んだよ。偽造報告でもすると思ってんのか」
リンクの渋る言葉に、反応を示したのは神田だった。
足を止めて顔だけ振り返る。
向けた視線は射抜くように鋭い。
「見縊んな。どっかの甘ちゃんとは違うんだよ」
「…それ僕のことですか」
吐き捨てるような神田の言葉に眉間に皺を寄せつつも、溜息一つ。
アレンもまた静かにリンクへと視線を移した。
「…でも、神田の言う通りです。ここで嘘を付いたって、事の真相はリンクやあの緋装束の人達にも知られてる。そんなことしても…ただ話が拗れるだけだ。なんの解決にも救いにもならない」
アレン自身、似た身の上だからこそわかる。
敵か味方か疑われている時点で、不信な行動を一つでも取ることは自ら首を絞めるようなものだ。
だからこそ真実を告げないと。