My important place【D.Gray-man】
第42章 因果律
✣ ✣ ✣ ✣
しょりしょり
「……」
しょりしょりしょり
「……」
「……」
しょりしょりしょりしょり
「………パパ」
「あ?」
黒の教団、医療病棟。
手厚く看護されたエミリアの為に用意された病室。
そのベッドの横で、ひたすら無言で林檎を剥き続けているのはガルマーだった。
男手で育ててきたからか、その厳つい顔からは想像できない手先の器用さで可愛らしいウサギ形の林檎が出来ていく。
お皿にてんこ盛り。
がしかし、一匹も手を付けられていない。
「仕事戻れば」
「お前…っ仕事すりゃ家庭家庭ってうるせぇ癖に…! というか林檎食べろよっ」
彼女の為に剥いているのに、短期入院となっている娘はと言えば冷たい一言。
新たに出来た林檎の皮をゴミ箱に放りながら、ガルマーは顔を顰めた。
「怪盗Gは死んだってことで、此処の人と話決まったんでしょ。いつまでいるのよ」
「いいんだよ、仕事は…お前の傷治るまで、有給取ったから」
教団から聞かされた、まるで悪夢のような話。
〝千年伯爵〟
〝AKUMA〟
〝イノセンス〟
〝エクソシスト〟
自分の知らない世界があって、自分の知らない悪がいて、自分の知らない戦いがある。
ただ話を聞いただけなら他人事のようにも思えたが、娘のエミリアが巻き込まれたのだ。
もうその事実を無視することなど、ガルマーにはできなかった。
表沙汰に騒ぎ立てないのが教団のやり方らしく、一応そう"仮の形"で治まった今回の怪盗G事件。
警察としてもそういう形で治まってくれるのならば、それに越したことはない。
新たな林檎に手を伸ばし、再びしょりしょりと器用に果物ナイフで皮を剥いていきながら、ガルマーは静かに肩を落とした。