My important place【D.Gray-man】
第42章 因果律
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パキ、ン
角砂糖が砕けるような、そんな微かな音が肌の上で鳴る。
同時に温かさが戻るように色付いていく頬。
柔らかい、弾力のある肌。
「…せんせぇ」
もう硝子玉のような目も、半開きの口も、堅い皮膚もない。
ぐすん、と鼻水と涙を零しながらティモシーは仰向きに寝かされている院長の顔を覗き込んだ。
「痛いとこねぇ?…へーき…?」
ぼろりぼろりと、幼い瞳から零れ落ちていく涙。
薄らと目を開けた院長の瞳がそれを捉える。
AKUMAの能力から解放され、元の人の姿に戻った顔で。同じに柔らかい人の皮膚を成した手で、そっとティモシーの頬を撫でた。
「…先生はとっても頑丈なのよ」
「せんせ…っ」
「へっちゃらよ」
赤い顔で笑う院長の顔は、初めてティモシーが見た時のものと同じ。
なんでもない、と穏やかに笑う顔。
「せんせぇえ!」
耐え切れなくなったティモシーの両手が、院長の体に回って抱き付く。
わんわんと泣くまだ幼い少年を前に、院長はしかと両手で抱きしめ返した。
──が。
「せんせぇ顔あっつい!」
「え~?」
ガバッと慌てて身を起こす。
そんなティモシーの目に映ったのは、赤い顔でぐるぐると目を回す院長の姿。
どうやらこの顔の赤らみは発熱によるものらしい。
「大変っ子供達も…! 凄い熱!」
「びぇえええ!!」
「うわぁあ~ん!」
院長と同じく元の人間に戻ったものの、わんわんと赤い顔で泣き喚く孤児院の子供達を、慌ててエミリアが抱き締めた。
その肩はリーバー達に応急手当をしてもらい、真っ白な包帯を巻いている。
「ダークマターの影響を受けたんだ。本部で診せた方がいいな…っゴズ、本部に至急ゲートの申請してくれ!」
「は、はいです!」
リーバーの指示に慌ててゴズが荷物の無線機に向かう。
孤児院を囲っていた魔道結界が解けた後は、何かと忙しなかった。
AKUMAに人形化させられていた、孤児院の者達の安否確認。負傷した者達の応急手当。
状況に慌てふためくガルマーへの説明も改めてし直し、とうとう彼もAKUMAの存在を認めるに至った。
そして新たなAKUMAに襲われないよう、結界装置で孤児院を中心とした辺り一体の包囲も行う。