My important place【D.Gray-man】
第11章 黒の教団壊滅事件Ⅳ
「ないのなら見つければいい。近々、教団に新しく任命されるリーという室長がいる。そいつの下なら、お前も普通に生活できるだろう」
普通の生活って何。
毎日三食、ご飯が食べられること?
温かいお布団で眠れること?
痛い思いをしなくて済むこと?
それが普通なら、私は要らない。
「もう、いらない…なにもいらない。ほしくない」
欲しかったのは、あの二人だけ。
望んでも手に入らないなら、もう何も欲しくない。
「諦めるな。全てを放るには、お前の人生はまだ短過ぎる」
「ながさなんて、かんけいあるの」
そんなもの見つけられるかもわからないのに。
その間、私はどう生きればいい。
縋りたいものは何もない。
抱えたいものも何もない。
私の胸の中は、もう空っぽ。
「醜くたっていい、生きてみろ。今お前が生きられるもんを抱えて、今を生きろ」
パサ、と。その人が私のベッドに置いたのは一冊のファイル。
「お前が欲しがってた情報だ」
「…え…」
「期待する程のことは記されてないがな」
慌ててファイルを開く。
記されていたのは父と母の名。
本当の本当に?
父と母のこと?
何度も何度もファイルを凝視した。
「生きていれば、いつか大事なものはできる。それまで、そいつに縋って生きてみろ」
「っ…」
ファイルを強く胸に抱く。
この人が誰で、何故こんなことをしてくれるのか。
そんなことどうでもいい。
私に必要なものはこれだけ。
空っぽな私の胸に入れられるものは、これだけだから。
「…おとうさん…」
ファイルに記された名を、指先でなぞる。
掌の血が付いて、紙の上に擦れた。
「…おかあさん…」
血に塗れた名を頭に刻む。
片時も、この名を忘れないでいよう。
教団が二人のことを隠すなら、私が思い続けて生きるから。
二人だけを思って、生きてみるから。
「すこしだけ…まってて」
私に残っているのは、この体。
二人に貰った、唯一のものだから。
生きられるところまで、生きていく。
いつか、二人の処へ逝くその時まで。
「…さよなら」
その時は、今度こそ迎えに来て。