My important place【D.Gray-man】
第11章 黒の教団壊滅事件Ⅳ
暗い部屋。
ぽつんと置かれたベッドの上。
膝を抱いてうずくまったまま。
腕から手まで巻かれた包帯は、黄ばんで嫌な臭いがした。
最後に手当てをしてくれたのは、いつだっけ。
パキンと小さなガラスが割れるような呆気ない音を立てて、父のイノセンスは私の手の中で砕けて消えた。
同時に胸の中がぽっかりと空いた感覚。
父が残してくれた唯一のものを、私は失ったんだ。
『残念ながら、君に素質はないようだ』
それからだった。
周りの大人の態度が一変したのは。
あの嫌な検査も実験もなくなったけれど。
『出来損ない』
『使えない』
『もう要らない』
冷たい目で語ってくるのは拒絶だけ。
要らないなら帰してよ。私のおうち。
…ああ、私。
帰るとこなんて、あったっけ。
ギィ…
重い扉が開く音。
いつもそこが開くのは、ご飯の時か、適性実験の時か、身体検査の時だった。
…最後に開いたのは、いつだっけ。
「まだやってたのか、こんなガキに…中央庁の奴らも無責任なもんだ」
ゴツゴツと重い靴音を立てて誰かが近付く。
大きな体で見下ろしてきたのは、知らない顔だった。
「…おじさん、だれ」
「はっはっは。お兄さんと呼べ、チンクシャ」
無造作に跳ねた赤い長髪に、顔の片側にだけ変な仮面のような物を付けていて。唯一見える片目は、此処の誰よりも鋭い。
でも私を見る、周りの冷たい目とは違った。
「お前はイノセンスの不適合者と見なされた。もう此処にいる意味はない」
"不適合者"
使えない者の烙印。
ああ、やっぱり。
「もう自由になれる」
大きな手が私の手を掴む。
黄ばんだ包帯を剥がして、見えたのは膿んだ血がこびり付いた両手。
「…じゆうって、どこに」
会いたかった人は、もういない。
一緒にいたかった人は、もういない。
私の帰りたい場所は、何処にもないのに。
「生きたいと思える何かが、お前にはあるか?」
「…なにか…?」
大きな手が、真っ赤な私の掌に何かを塗っていく。
ひんやりとしたそれに、痛みが緩和していく気がした。