My important place【D.Gray-man】
第42章 因果律
「んぐ…それは…そう、ですけど…」
なんとか喉に残ったものを飲み込んで、取り繕うように笑って返す。
そんな私に、ボネールさんはにんまり笑顔を浮かべ続けたまま。
「朝もばっちり見ちゃったわよぉ。必ず此処から出してやるって、あの子と熱ぅ~いembrasserし」
「てませんッ!!」
何その脱線事故!
確かに朝方、出て行く前に本部に連絡入れて人を呼んでくれるって言ったけど!
必ず此処から出してやるとも言ってくれたけど!
熱いembrasserなんてしてないから!
どこをどう脱線したらそうなるの!
「そうなの? あらまぁcalinの方? 見間違えちゃったわ!」
「だから違…っ…calin?」
て、何。
embrasserはわかるけど…カラン?
何それ、初耳。
「ハグよぉ、ハグ。好きな人への愛情表現のヒ・ト・ツ♡」
「……」
きゃん♡なんて言いながらボネールさんの指先が、ちょんと私の鼻先に当てられる。
なんだろう…この人の言動全部拾ってたら、すごぶる疲れる気がする…。
ジェリーさんに似てるな、そういうとこ…。
…オカマさんて皆こうなのかな。
というか、
「ハグもしてませんから」
ハグは任務後じゃないとユウはしてくれない。
そう約束したから。
「あ~あ、羨ましいわぁ。檻に閉じ込められた乙女を迎えに来てくれる王子…アタシも誰か迎えに来てくれないかしらぁ!」
「あの。話聞いてます?」
王子て誰。
まさかのユウ?
あの人、外見はつり合っても中身は王子とかけ離れ過ぎてる気がするけど…というかかけ離れてる。
王子だなんてガラじゃない。
でも筋肉の付いた両腕で自分自身を抱きしめて体をクネらすオカマさんには、どうにも私の声は届いていないらしい。
「白馬に乗ってなくてもいいのよう。数年は養えるくらいの貯金と技術専の職を手にしていれば」
あ、意外と現実的。
って違う。
「はぁ…そんな人現れるといいで──」
「おっ」
自分の妄想に入り込んでるボネールさんに、肩を落としつつ話を切り上げようとすれば。
「おーい、待たせたな」
その場にはないはずの声が耳に届いた。