My important place【D.Gray-man】
第42章 因果律
「……"言うな"って言っただろ。前に」
「む?」
「"大丈夫"。雪にそう言うなって。お前、俺に言っただろ」
返された言葉は応えではなかった。
褐色の指先に煙草を挟んで、空いた口で静かに尋ねてくる。
その声は感情の見えぬ静かな声だった。
「あれ、どういう意味なんだ」
そういえば…そんなこともあったか。
ノアの覚醒を止めようとすれば、体を勝手に弄られることへの恐怖に雪は怯えていた。
安心させる為にティキが投げかけた言葉は、その時の雪には逆効果でしかなかった。
だから止めさせた。
"大丈夫"
その言葉は幼き雪の心に植え付けられた呪いのようなものだ。
その言葉を投げかけられながら、雪の幼き体は無情な教団の者の手によって弄り探られ、苦痛と恐怖を与えられた。
満足な説明もされず強要される。
意味のわからぬその行為は、さぞ雪には恐ろしいものであっただろう。
それでもその場から逃げ出さなかったのは、両親への愛があった故だ。
何にも勝る、大きな愛。
今の雪のノアになることへの枷となっているものと、同じもの。
じゃから幼き雪の心が顔を覗かせたあの時、その言葉を聞いただけで体が反応したのだろう。
体を震わせ呼吸さえままならなくなり、恐怖しか感じていなかった。
あれは因果のようなものだ。
「云うより見た方が早かろう」
百聞は一見に如かず。
言葉で説明するのも面倒だと軽く手を翳せば、ティキの顔はやっとワタシへと向いた。
バッと上がった顔が向くと同時に、体は勢いよく後方へと後ずさる。
それは明らかな"拒否"だった。
………なんじゃその反応は。