My important place【D.Gray-man】
第42章 因果律
「何朝から動物虐待やってんの」
ビィビィと濁った声で鳴く小鳥を掌に、さて、と行動に移そうとした時。呆れた声が背後から掛かり目線を移した。
ぼさぼさと乱れた癖の強い黒髪に、口周りには処理していない薄らと生えた髭の跡。
くしゃくしゃの白シャツにジーンズと、如何にも寝起きのような出で立ちで呆れた目を向けてくるのは、我らが家族の一人。
「おお。いつから此処に来ておったのだ? ティキ」
人間名はティキ・ミック。
第3使徒"快楽"のノア〝ジョイド〟
「昨日シェリルの茶会につき合わされて、そのまま此処に泊まったんだよ。お前は逃げ出してたから知らねぇだろうけど」
「ああ、デザイアスか。あの茶会は息が詰まるからのう。ワタシは苦手だ」
くあ、と欠伸混じりに呟く顔は、茶会のことを思い出しているのか。げんなりとしたもの。
この広い庭園付きの豪邸は、シェリル・キャメロット邸。
ワタシらノアは人間界でもそれぞれ役割を持って、"人"としても生きている。
シェリルはロードを養子として育てているこの大豪邸の主として暮らす、我らがノアの一人。
人間名はシェリル・キャメロット。
第4使徒"欲"のノア〝デザイアス〟
かく言うワタシもデザイアスの養子として、人間界に住まわせてもらっている身。
ノア覚醒前のワタシはホームレス同然じゃったからのう。
住まう家など持たなんだ、そんなワタシをデザイアスの養子にと推したのは千年公だった。
……デザイアスの奴、嫌がっておったのう…。
あ奴は潔癖に近い綺麗好き過ぎるところがある。
「そんな恰好で彷徨いておったら、またデザイアスに小言を言われるぞ」
「それはお互い様だろ。まともに風呂にも入りゃしねぇって、シェリルの奴お前の文句言ってたぜ」
溜息混じりに歩み寄った長身の体が、ベンチへと腰を下ろす。
一人でならまだしも、メイドに世話される風呂なぞ誰が好んで入るものか。
ワタシもティキも、身形を気にしない所は似通っているが…そこがデザイアスの悩みの種になっているらしい。
いくら肩書は養子と言えど、単なる親子ごっこに過ぎない。
ワタシはデザイアスの子供になる気はないからのう。