My important place【D.Gray-man】
第41章 枷
「とにかく一晩それ貸してやるから、今日はここで寝ろ」
「…じゃあ、ユウが傍にいてくれる?」
話題を戻して話を終わらせようとすれば、じっとこっちを見てくる顔が言い難そうに言葉を投げかけてくる。
「できるなら…触れていたいなぁって。ユウが傍にいれば、寒くないから」
……そういや似たようなことを、バレンタインなんて日に言ってたか。
雨に降られてずぶ濡れになった体を暖取りの為に抱けば、その身を俺に預けて漏らしていた言葉。
あれは身体的な意味だったのか、精神的な意味だったのか。
今でもわからないが、なんとなくふと思い出した。
「…好きにくっ付いてろ」
柵が邪魔して充分に触れることはできねぇし、元より抱きしめるつもりはない。
それは任務から帰ってやると約束した。
だから柵に凭れるように背中を預けて座れば、その鉄の棒越しに寄り添う気配がする。
ぴたりと俺の背中に触れる小さな手。
「ありがとう」
嬉しそうな声が傍で心地良く響く。
背中に感じる雪の体温とその存在。
しっかり俺の腕の中に抱いてるわけじゃねぇのに、その時と同じに心地良い空気が俺を纏う。
……このまま寝落ちるんじゃねぇぞ、俺。
居心地の良い微睡みに襲われそうな気配に、頭を切り替えるように雪から意識を遠ざけ──
「…オイ」
もそもそと俺の背中で動く気配が、否応なしにその存在を主張してくる。
背中にぴったりと触れていただけの手が、抱き付くように俺の腹部にしっかり回された。
「何やってんだ」
「何って…ハグ?」
「…それは帰ってからやるっつっただろ」
「それはユウからのハグでしょ。これは一方的な私からのハグだから別物です」
そうはっきり告げると、腕を回したまま抱き付いた体がギリギリまで密着するように触れてきた。
間には鉄の柵があるから、隙間なくぴったりとは触れ合えない。
それでも雪には満足のいくものだったのか、その恰好で腰を落ち着かせると静かに動かなくなった。
…本気でこの恰好のまま寝るつもりか、こいつ。