My important place【D.Gray-man】
第41章 枷
名前を呼んでも返事はない。
無言を貫くユウの行動の真意はわからなくて、だけど良いものではないことは一目瞭然だった。
「ご…ごめんなさい…」
声が震える。
あ、なんか涙声になってる私。
だって初めて見たんだもん、こんな無表情にキレてるユウ。
いつもはわかり易いくらいに負の感情を露わに怒るのに、こんな眉間に皺一つ寄せず怒ってるのは初めてだった。
この怒り方のパターンはなかったから、どう回避したらいいのかわからない。
そもそもこの静かなる鬼の扱いがわからない。
「……」
それでも尚、私の声にユウは一切応えない。
そのまま無言で寄せられる顔に、反射でぎゅっと強く目を閉じた。
ヘッドバットは弱めにお願いします…!
「っ!」
……。
……………。
……………………。
………………………………?
だけど痛みは一切やってこない。
不思議に思って恐る恐る目を開ければ──…間近に見えたのはユウの顔。
ぱちりと目が合うと、見計らったように僅かな距離を縮めた。
ふに、と唇に感じる柔らかいもの。
……あれ。
私…キス、されてる…?
「……」
思わず目を見開く。
目の前には近過ぎるユウの顔。
ピントがズレてよく見えない。
でも確かに触れているのは、その目の前にいる人の唇だとわかった。
予想外な行為に固まったままでいると、やがてゆっくりと顔が離れる。
少しだけ距離を取って見える、相変わらず無表情なユウの顔。
「…どういうキスをされたんだ」
「…え…?」
やっと発せられた言葉は、私を咎めるものじゃなかった。
どういうって…ルパンからのキスのことだよ、ね?
「……これと同じ…軽いものだったよ。一瞬だったから…私も、それでユウじゃないって気付いて…すぐに止めさせたから…」
もたもたと相変わらず私の口から溢れるのは、言い訳染みた言葉ばかり。
そんな私に黙ったままユウは耳を傾けてくれていた。
「そうか」
そして返された言葉はそんな一言だけ。
あれ…これ、怒ってないのかな…。
……。
………でも体は後ろの壁に縫い付けられたままなんだけど。
この手、放して欲しいんだけどな…。