My important place【D.Gray-man】
第41章 枷
「……」
「…雪」
どっちを選んでも結果は同じだと黙り込んでしまえば、目の前のユウが静かに名を呼んだ。
低いけど、荒立ってはいない声。
「何かされたんならちゃんと言え。されてないなら、そう言えばいい」
再度促してくる。
でもその言葉は棘があるものじゃない。
恐る恐る目の前の顔を伺えば、眉間の皺はいつの間にか消えていた。
…あれ…怒って、ない…?
「お前が俺の立場だったらどうなんだよ。そこを考えろ」
「……ぁ」
さっき感じた思いと同じだ。
私がユウの立場だったら。
変装したルパンに騙されてたら嫌だなぁって、そう思ったのと同じ。
……そう、だよね。
いくら心で繋がってても…言葉で言わなきゃ伝わらないこともある。
肌で触れ合っているだけで貰える安心感があるように、言葉で紡いでもらって貰える安心感もある。
そういうものを、私はユウに教えてもらった。
「……ごめん」
私がユウだったら。
私以外の異性とそんなやりとりしていれば、不安になる。
真実を知りたくなる。
未だ握られたままの左手で拳を握る。
ぎゅっと冷や汗を包むように手を握って。
……ちゃんと言おう。
騙されてユウだと思ってたんだから、別に浮気でもなんでもないし。
でも言ってちゃんと謝ろう。
ユウも聞いてくれるって、そう言ってくれたから。
「あのね……キス、して欲しいって、さっきみたいに変装してたルパンに頼んだら…その……」
「……」
「……」
「……なんだよ。何されたんだ」
思わず言葉が止まる。
こんなに伝えることが困難だなんて。
………これ、下手したらノアのこと伝えるより困難かもしれない。
拳骨貰ってもいいように、頭への注意は忘れないでおこう。
そう身構えて口を開く。
「………キスされました」
真っ直ぐにユウの顔を見て告げる勇気はなかったから、俯いて正直に真実を告げた。