My important place【D.Gray-man】
第41章 枷
「…何黙り込んでんだ。やっぱりあの猿に何かされたか」
「ち、違う違う」
思わずルパンとの別れ際のことを思い出していれば、目の前のユウの声が幾分低さを増した。
はっと我に返って慌てて首を横に振る。
何かされたって…や、うん。
何かは、されたんだけど。
というか思いっきりボネールさんの言う通りになってしまった。
………言えない。
ユウと間違えてルパンとキスしちゃいました、なんて言ったら頭に拳骨喰らいそうな気がする。
ユウに嘘を付きたい訳じゃないけど、殴られるのが目に見えててそんなこと言えるはずがない。
「おい、いつまで時間かかってんだ。手当てが済んだら独房に戻るぞ」
ゴン、と乱暴に扉をノックする音。
ユウと共に部屋の出入口に目を向ければ、半分開いた扉から顔を覗かせながらノックする、ガルマー警部の姿が見えた。
その姿に、改めて此処はパリ警察署内部なんだと思い出す。
そうだ。
ルパンの手からは逃れられたけど、私が怪盗Gの容疑がかかっている囚人なことには変わりない。
またあの檻の中に戻らないと。
扉を隔てた向こう側は、沢山の警察の人々が行き交う署内。
此処は小さな喫煙用の休憩スペース。
鼻に掠る独特の煙草の苦みは、あのルパンとのキスを思い出させた。
………ユウ以外の男性にキスされたからって至極凹む程、繊細な乙女心は持ち合わせてないけど…。
罪悪感は、あるかもしれない。
ユウにはああ言ったけど、私もユウの立場だったら…本物の私と、私に化けたルパンを見間違えて欲しくなんてないから。
「まだ少しかかる。終わったらつれてくから外で待ってろ」
「なんだぁ、その言い方──」
「まぁまぁ。落ち着きたまえ」
冷たいユウの言葉に、ピキッとガルマー警部の額に青筋が浮かぶ。
そのまま噛み付こうかとした彼の肩に手を置いて止めたのは、銭形警部だった。