第1章 「こっち向いて、君」
翌日、は出勤し、事務所にいたスタッフに挨拶をした。
斗真も当然おり、いつもどおりに挨拶をするが、斗真は不自然なほどに優しい笑顔で「おはよう」と言っただけで、他にはなにも言ってもしてもこない。
昼休憩になると、斗真とまた二人きりになった。
「あ、店長。お昼買ってきましょうか?」
「ううん、いい。俺今日外で済ます」
「そうですか…」
「しっかり休んで午後も頑張れよ」
そう言い残し、斗真は事務所から出て行く。
そんな風に、前まで馬鹿みたいなやりとりをしなくなってもう一週間が経とうとしていた。
は俊介が好きで、軽い、意地悪な店長は苦手。
彼女本人はそう思っていた。
だが、この心のもやもやはなんなのだろうか。
「ふー…」
「よっ」
「あ、風間さん」
「最近元気ないけど、なにか悩み事?」
「いえ、そうでもないんですけど…」
「俺でよければ話してよ。元気のない見るの嫌だし」
「ありがとうございます。実は…」
そうして、俊介に最近あった事を話す。
俊介は黙って聞いていた後、難しい顔をする。
「前にさ、店長に言われたんだ。に好きになられないでねって」
「えぇ?」
「さっきの話からすると、俺の自惚れじゃなければ、は俺の事好きなのかな?」
「あっ」
俊介の気持ちまでつい暴露してしまった事に気付き、は赤面した。
自分の馬鹿さ加減に呆れる。
断られるのは分かっているが、こんなタイミングとシチュエーションで言う事ではない。
だが、予想に反して、俊介の行動はこうだった。
「んっ…」
「…俺も、が好きだよ」
「…えぇぇぇ!!??」
「ごめん、いきなりキスして。でも、嬉しかったから」
不思議なものだ。ずっと好きだと思っていた俊介にキスをされ、両思いだと告げられたのにも関わらず、嬉しさがそんなに込み上げてこない。
「、自分の気持ち分かったんじゃない?」
「えっ…」
「ぶっちゃけ、今あんまり喜んでないでしょ」
笑いながら俊介は言う。
申し訳なさやらなにやらが押し寄せてきて、は泣いてしまう。
俊介は「気にしなくていいよ」と頭を撫でてくれている。
そこで、どこから現れたのか斗真が突然俊介を突き飛ばした。