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こっち向いて、君。

第1章 「こっち向いて、君」


強引に押し切られ、結局は斗真を家に上げてやるのだった。
斗真は珍しそうに部屋を見回している。

「なかなかいいアパートじゃん」
「そうですか?まあ座ってください。今コーヒー淹れますから」
「あ、下着発見」
「いいから大人しく座ってろこの馬鹿が」
「あのさ、俺一応店長ね?」

コーヒーをテーブルに置き、二人は向き合う形で座った。
話はほぼ仕事の事だ。やれ棚卸が面倒だの、ビッグタイトルの映画のDVDが入ってくるのでコーナー展開が面倒だの、そんなような話をしている。
すると、話は突然思わぬ方向に向かった。

「ねー、ってさ、風間の事好きなの?」
「あぁん!?」
「こえーよ。キレんなよ」
「なんでそんな事店長に言わなきゃならんのですか」
「俺店長だから、スタッフ同士のそういうところも知っておかないと、ね?」
「なにが、ね?なのか知りませんけど、言いませんよ」
「…じゃあさ、俺がこういう事したら怒る?」
「へ?…きゃっ」

急に斗真がを押し倒した。
顔の距離はお互いの息がかかる程に近い。いつもへらへらしている斗真の顔は真剣で、咄嗟の事にも言葉が出てこない。

「なん、なん…」
「カレー?」
「ナンじゃねぇよ。ちょっと、離してください」
「やだ。ねぇ、俺の事好きになって?もっと俺だけに色々な顔見せてよ」

鼓動が早く、顔が熱い。
その時間は異常に長く感じた。が口を開こうとしたところで、斗真がパッと離れた。

「…みたいな事したら怒る?」
「店長……」
「ん?その気になっちゃった?」
「フライパンと包丁どっちがいいですか?」
「撲殺か刺殺か選べと!!??」
「もう帰ってください!私は…風間さんが好きなんです!店長なんて絶対好きになりません!!」

本気で怒りを覚えたは気付けばそう叫んでいた。
斗真は少し黙り、コートを拾うと、玄関に向かった。

「ごめんな。嫌な事して。もうお前にちょっかい出さないから。また明日な。おやすみ」
「てんちょ…」

言い切る前にドアが閉まる。
さすがに言いすぎただろうか。
だが、斗真の事だ。明日にはまた忘れたように意地悪でもしてくるのだろうと、その時のはまだ楽観的でいた。
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