第1章 「こっち向いて、君」
やっと仕事も終わりの時間を迎え、は皆に挨拶をし帰ろうと事務所の扉を開ける。
俊介も同じ時間に上がりのため、一緒に帰る事になった。
もうすっかり冬も近づき、外は寒い。
「よかったら、夕飯食べて帰らない?」
「あ、いいですね!」
「俺も」
「わぁぁ!!!」
突然ぬっと後ろから顔を出した斗真に、二人は驚いて飛び退いた。
斗真は一瞬俊介を睨み、の頭を掴む。
「なに食いたい?」
「えぇ、店長も来るんですか?」
「行くっつの。なに食いたい?」
「えっと、じゃあラーメン!」
「よっしゃ、焼肉行こうぜー」
「何故聞いた」
強引な斗真に引きずられ、結局三人で焼肉屋に行く事になった。
三人でテーブルを囲み、肉を焼く。
なんだかんだ付き合いの長い三人なので、会話は弾んでいた。
「、肉取って」
「自分で取ってくださいってあー!それ私の!」
「お前のものは俺のもの」
「どこのガキ大将ですか」
「はい、」
「あ、先輩ありがとうございます!」
彼女の分の肉を取ってくれる俊介はやはり優しい。はそれに喜びを感じつつ、肉を味わっていたが、斗真はそれを面白くなさそうに見ている。
「ー、早く俺の肉焼いてよー」
「もー。子供じゃないんですから」
「俺、いつまでも子供心をなくさないんだ」
「へー」
「スルーはやめよう?もーいいよ。ほら、俺も焼いてやるからどんどん食え」
そう言っての更に次々と肉を乗せ始める斗真。
「こんなに食べられませんよ!」
「俺が心を込めて焼いたんだから、食うよね?」
「…っ…あぁもう!食べますよ!」
焼肉屋を出る時には、の胃はもたれていた。一応常備している胃薬は飲んだが、即効性はない。
「大丈夫?」
「大丈夫っす」
「あんなにガツガツ食うから。太るぞ」
「店長事故に遭わないかなぁぁぁぁぁ!!!!!」
「声でけぇよ。だから本人いないところで言えよ」
三人の帰路は途中まで同じなのだが、そろそろ分かれ道に差し掛かった。
俊介が先に離脱する。別れの挨拶をし、次はが道を曲がる番だ。
「じゃ、お疲れ様です」
「送ってく」
「いいですよ、近いし」
「寒いから温かいお茶でもご馳走になります」
「図々しいという言葉を辞書でひいてください」