第2章 僕は何かを失いそうだ
屯所を出て、もうすっかり暗くなった路地を歩いていると背後に人の気配を感じた。
僕が左腰に手を掛けて振り向くと、不穏な空気を纏った男が二人立って居る。
「新選組の沖田総司だな?」
そう問われた僕は、有希ちゃんを自分の背後に隠してから「誰?」と男達に問い返した。
「肥後勤王党の宮部鼎蔵先生の仇………
此処で果たさせて貰う。」
低い声でそう言って抜刀した二人に向かって、僕も笑いながらすらりと清光を抜く。
「宮部って誰だっけ?……覚えてないなぁ。」
僕の言葉に男達の憤怒が一気に膨張したのを感じた。
「……貴様っ!」
言うや否や二本同時に振り降ろされた刀先を、僕の清光が一瞬で跳ね上げると
「流石は……沖田総司だな。」
と、男達は構え直す。
「有希ちゃん、大丈夫だよ。
僕の背中から離れないようにね。」
視線だけを有希ちゃんに向けて安心させるように囁くと、有希ちゃんは気丈に微笑んでゆっくりと頷いた。
「うん。良い子だね。」
そう言って僕も微笑むと、そんな態度が益々相手の癪に触ったようだ。
「貴様、何処までも我々を愚弄するつもりかっ!
女を庇いながら二人を相手にするなど……」
再び斬り掛かって来た男達の相手をしながら僕は迷っていた。
此処でこの二人を斬り伏せてしまうのは簡単だけど、僕の背中には有希ちゃんが居る。
有希ちゃんの目の前で殺生を行う事が酷く躊躇われた。
以前の僕なら当たり前のように斬り伏せていただろうけど、有希ちゃんがそんな刹那的な僕を変えてくれたんだ。