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薄桜鬼~100万回言うよ~

第3章 君の名を呼んだ


夕刻になり、そのまま部屋の中でぼんやりとしていた僕の所に左之さんが来てくれた。

僕の前に腰を下ろし、「大丈夫か……総司?」と心配そうに様子を伺う。

「僕は…平気ですよ。」

無理矢理笑顔を作って答えてみたものの、左之さんの顔が和らぐ事は無かった。

暫くお互いに無言のままで居たけど、左之さんの方からぽつりぽつりと語り出した。

僕の部屋の前から風間に連れられて、有希ちゃんは皆への挨拶もそこそこにそのまま西国へ向かったらしい。

憔悴しきって、放心状態のような有希ちゃんを風間がずっと支えてくれていて、

「ちょっと……あの有希の姿は見ていられなかったぜ。」

と、左之さんが伝えてくれた。

その言葉に僕が苦し気に顔を歪めると、左之さんは慌てたように続けて言った。

「だがな、総司。
 俺はお前の決めた事を間違ってるなんて思っちゃいねえ。
 いや…俺だけじゃない。
 近藤さんも土方さんも、新八だって…皆そう思ってる。」

僕が左之さんの顔をじっと見つめると、左之さんはふっと微笑んで僕の頭をくしゃりと撫でた。

「お前は有希に生きていて欲しいだけなんだよな。
 だからこんな辛い決断が出来たんだ。
 総司は……強いな。」

僕は泣き出しそうになってしまい、それを誤魔化す為に

「子供扱いしないで下さいよ。」

と、僕の頭を撫で続ける左之さんの手を振り払った。

「ははっ……悪い悪い。
 さて…と、そろそろ夕餉の時間だ。
 お前もいい加減部屋から出て来い。
 皆心配してる。」

左之さんはそう言って立ち上がり、僕の部屋から出て行った。


あんなに有希ちゃんを泣かせた僕の決断が、正しい事だったなんて思えない。

それでも左之さんが言ってくれた通り、僕は有希ちゃんに生きていて欲しいだけなんだ。

それを分かってくれる人が居る事で、僕はほんの少しだけ救われたような気がした。


だから……

有希ちゃん……生きて。

例え僕が側に居なくても。

君が生きていてくれさえすれば……

僕は…それで良い。
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