第10章 緑間視点
だから、WCの予選で板井野を見かけたときは驚いた。
ついに試合を見にくるようになったのかと。
入学式の時の様に、凛とした姿。
しばらく見ていれば高尾に霧崎が気になるのかと、問われる。
俺は、その時板井野が霧崎の制服を着ていることに気づいた。
IHにはいなかったはずだ。
俺は声をかけようと思ったが、やめた。
いずれ霧崎とは当たる。
直接試合を見せ、俺を知ってもらおうと思った。
何故霧崎にいるのかは、その時、聞けばいいと判断した。
高尾が軽口を叩いているのを諌める。
試合前、手を振る板井野がいた。
霧崎には「悪童」と呼ばれる花宮がいるため、少し心配していたが思ったより穏やかな顔で安心した。
それは大きな間違いだった。
「肉便器は霧崎に入ったよん」
板井野を指差しながら、ガムを噛んでいる男がからかうように言った。
言われた時、理解できなかった。
肉便器?
なんだ、それは。
意味が分からず怪訝な顔つきになる。
「ああ、公衆便所としてよくやってる」
無表情の男が、続く。
公衆便所……。
決していい意味の言葉ではないと、分かった。
高尾がえ、清楚っぽいのにビッチなのという発現が妙に癪に障った。
そう、意味は分からないが。
清楚。
確かに板井野はかつての凜とした本来の美しさを取り戻していた。
~のに、という事は反対の意味だということだ。
板井野が蔑まれている気がして、無償に腹が立つ。
アイツは自己犠牲の精神の強いバスケを愛する女だ。
試合前、板井野は俺に手を振ってきたというのに。
それはこの扱いを受け入れているという事か?
霧崎の、無冠の花宮といえば、悪童と評されるように姑息な手を使ってくる男だ。
同じ無冠の木吉鉄平は去年の試合で負傷させられたと聞く。
IHの予選では負傷者を出したが、この大会では出していない。
まさか板井野!
負傷者を出させないために霧崎の言いなりになっているのか?!
なぜそこまで献身的になる。
恐らく酷い言葉を言われて、酷い扱いを受けてまで、負傷者を出さない方がいいというのか?
身を挺してバスケに献身する板井野に、どこか苛立った。
そしてそんな板井野を利用する霧崎への悪感情が強まる。
とても冷静では入られなかった。
怒りでどうにかなりそうだ。