第2章 Sweet Time~恋のチョコチョコ大作戦~
遠征からの帰り道
鶴丸殿が横に来て私に話しかけてきた。
「一期、そんながっかりするな。きっとサプライズなんだよ。主は一期を驚かせるつもりなんだよな」
と、元気づけてくれる。
「そうだといいですな、鶴丸殿」
そんなに落ち込んだ顔をしていたのだろうか。
確かに、今の時間まで誰一人今朝のチョコレートの話をしなかった。
みんなに気を遣わせてしまったことが申し訳なく、努めて明るく振舞うことにした。
「お帰りなさい!遠征お疲れ様でした!!」
門の前で、いつも通り彼女がみんなを出迎えてくれる。
「主、ただいま!」
そう言って彼女に抱きつく蛍丸。
「お帰り、無事に帰ってきてくれてありがとう」
蛍丸の頭をなでながら言う彼女。
嬉しそうに本丸に入って行く彼を見ていると
「一期、お帰りなさい。お疲れ様です」
と私の服をきゅっと引っ張り、微笑んでくれた。
「ただいま帰りました」
そう答えると「さみしかった」と彼女の声。それは本当に小さくて私にしか聞こえていないようだ。
彼女はほんのり頬を赤くして
「さあ、先にお風呂にどうぞ」と言って彼女は門の中に入って行った。
「様・・・」
私しか知らない彼女の名前をそっとつぶやく。
私はチョコレート一つでなにをそんなにガッカリしていたのか。特別なチョコレートが欲しい気持ちがあったのは確かではあるが、今の彼女を見て私だけに見せる特別な顔と特別な言葉。それだけで十分ではないか。
「はは、私もまだまだですな」
そう自嘲気味につぶやくと、足早に中へと急いだ。
今日の夜、彼女の部屋に行くとしよう。
それくらいは許されるだろう。
そう思うと、なんだか心が軽くなった。
夕餉も終わり、それぞれが浴場へと向かう。
私を含め、遠征組は夕餉の前に済ませてある為、各自部屋へ戻ったり広間でお酒の用意をしたりと思い思いに過ごしていた。
私は部屋に戻ると、今朝もらったチョコレートを開けてみることにした。
手作りとは思えないほどの出来栄え、そしてかわいらしいデコレーション。
それをひとつ口に入れてみる。
「甘い・・・ですな。でもやさしい味がします」
彼女の想いが、そのチョコレートに詰まっているような気がした。