第2章 黄瀬の「き」はキモいの「き」!
駅前のベンチなんて目立つところにいたせいもあり、次から次へと女の子から声を掛けられた。
慣れていることとはいえ、作り笑顔をするのもこの蒸し暑さのせいでちょっとイライラしてきた。
拾い主の顔も、ここにいつ来るかもわからないし、今どこかに避難して拾い主が来たら出て来るということも出来ない。
早く来てくんないかな。さっさと帰ってバスケしたい。
オレの物を届けてもらってるのだから文句は言えないけれど。
引っ切り無しに寄ってきたファンがちょうど途切れて、気疲れからのため息を盛大についたときだった。
「…あの、黄瀬さんですか?」
自分の名前を呼んだ、品のある声。
電話越しにきいた、あの声だった。
話し方や落ち着きようから、てっきり大学生以上の女性だと思っていたが、目の前にいる女は自分と同い年くらいの華奢な少女だった。
特別美人だったり可愛かったりするわけではないが、人当たりの良さそうな印象を受けた。
「そうッスけど…」
「先程お電話した…金井です。お待たせして…申し訳ありませんでした…」
少女は肩でしている息を整えながらそう言った。
よく見るとロングのストレートヘアは乱れていて、おでこには汗で髪が張り付いている。
「もしかして…走って来たんスか?」
「あ、はい。お財布がないとお困りでしょうし…見知らぬ人が持っていると思うと不安でしょう?だから早くお届けしないとって思ったんですけど…体力があまりないので…休み休みになってしまって。暑い中お待たせしてすみません」
いやいや、暑い中すみませんなのはこっちの台詞じゃね?!
彼女は面識もないオレの為に、この蒸し暑さの中駆けつけてくれたのに
座りながら笑顔で女の子達に応対してたくらいで、しんどいと思っていた自分が、急に情けなくなった。