Happy Flower~幸運をあなたに~【刀剣乱舞】
第3章 うちの本丸
「なみ様、入りますよ」
襖の向こうから、長谷部の声がした。
「どうぞ~」
私が答えると
「失礼します」と言って部屋の中に入ってきた。
長谷部は兄が最初に鍛刀した刀剣で、口癖は「主命とあらば」である。
私の事を溺愛しているようで、何か困っているとすぐに飛んできてくれる。
兄がもう一人できたようで、私はとてもうれしかった。
ただ・・・かなり過保護なところがあり、今ではまるで父親のような存在になっていることは、本人には言わないでおこう。
「主から、なみ様が事務処理をしているとのことでしたので、お手伝いに来ました」
「ありがとう、長谷部。助かる~」
そう笑って言うと
「主命ですが主命ではありません・・・私の・・その・・・」
となんだかもごもごしている長谷部。
そんな長谷部を見て、なんだかおかしくなってしまった私は
「は~せ~べ~」と言って彼の顔を覗き込んだ。
すると、びっくりした長谷部は、まるで何かに弾き飛ばされたかのようにしりもちをついて真っ赤になっていた。
「なみ・・・様」
そう一言言ったきり俯いてしまった。
「長谷部?手伝いに来てくれたんじゃなかったの?」
私が、少し困ったように言うと
「そ、そうでした。大変申し訳ございません。さ、早速始めましょう。どの書類からお手伝いすれば・・・」
と早口で言うから、私は笑いをこらえるのに必死だった。
動揺しすぎでしょ・・・長谷部さん。
なんて、最近は長谷部をちょっとだけ困らせることが楽しい・・・なんて言ったら怒られるかなぁ。
それからしばらく、私達は黙々と仕事をしていた。
一度仕事を始めると、たまに必要なことを一言二言話す以外は会話がない。
でも、そんな長谷部との時間はとても好きだった。
書類の擦れる音と筆音。そして、二人の呼吸が重なるこの空間にいると、心がとても穏やかな気持ちになる。
「なみ様、そちらはいかがですか?」
自分の持ち分を終えた長谷部が私に聞いてきた。
「ん~、もうちょっとで終わるかな。長谷部のおかげで、本当に早く終わったね」
私が書類に目を落としながらそう答えると
「では、その書類が終わりましたらお声かけください。私が主にお持ちいたしますので」
と、本当に嬉しそうな顔で答えた。
ねえ、長谷部。
あなたのその笑顔が私は好きですよ。