第1章 秘密の日課。~海堂薫~
さっきは驚いた。
なんとなく見上げれば、琴子がこちらを見ていたからだ。
そのせいで走り出した俺の頭には、琴子のことばかりが浮かんでくる。
帰ってきてもう一度琴子の部屋を見ると、また目があった。
「ただいま」
「…おかえり」
そんな言葉を交わして、俺は家に入った。
シャワーを浴びながら考えるのは、やっぱり琴子のことだった。
(もしかして、毎朝…?)
まさか。
そう思ったが、なんだかじんわりと胸が熱くなったような、そんな気がした。
朝食を食べて家を出ると、やっぱり琴子が窓から顔を覗かせていた。
「また、後でね」
にっこり笑う琴子に、ドキリとする。
いつものように片手を挙げて、俺はバス停へ向かった。
早歩きになっていたのは、気のせいじゃないだろう。
いつもと同じ練習風景。
いつもと同じように、着替え待ちで部室の外に立つ。
いつもと同じように、コートの向こう側を見る。
琴子が水やりをしている。
ぼーっとその様子を見ていたら、琴子がこっちの方を見た。
気づかれた?
やましいことなどないのに、冷や冷やする。
しかし、琴子はまた背を向けて水やりを再開する。
(まさか、な…)
着替えの順番が回ってきて、俺は部室へ入った。
着替えている間も、さっきの琴子が頭をよぎる。
今日は琴子のことばかり考えている気がする。
(あれが毎朝のことなのか、気になってるだけだ…たぶん)
幸い、席は隣。
教室に戻ったら、聞いてみよう。
そう思った。
びっくりした。
もしかして、私を見てる?
思わず、背を向けてしまったけれど。
単にこっちの方向を見てただけ、かな。
私はそう思うことにして、教室へ戻った。
席について、一時間目の教科書とノートを準備する。
そうしていると、薫くんが教室に入ってきた。
「…琴子」
席に荷物を置いた薫くんが、私を見る。
少し間を置いて、薫くんがゆっくりとしゃべる。
「朝の…アレは、いつもなのか」
「…えーっと…」
たまたま、なんて言えるだろうか。
最後のはいつものことだけど、朝の二回は。