第1章 秘密の日課。~海堂薫~
「うん、その…別に、理由はないんだけど…」
そう言ってしまってから気づく。
(理由がないって!そんなの好きって言ってるようなもんじゃない!!)
お願い、いつものように鈍感でいて、薫くん!と私は心底願った。
「…そうか」
理由はない、と言ったら、なんだか薫くんが一瞬落胆したような顔をした気がした。
そういえば、と私はさっきの出来事を口にした。
こっちの方見てたよね?と。
するとどうだろう、薫くんはびくっとして、顔を逸らせる。
「見て、ない」
「そ、そう…」
薫くんはあんまり嘘がつけない。
すごく分かりやすいからだ。
「いつも?」
「だ、から、見てないって…」
薫くんの目が泳いでいる。
目は口ほどに物を言うって言うけれど。
薫くんの場合は、口以上だ。
目つきが悪いわけじゃなくて、その目に主張がはっきりと表れるだけ。
「そっか。じゃあ、今度から手振るね」
私のことを気にしてくれてるんだよね。
きっと。
それから。
自分だけの日課が二人のものになった。
好きだからという理由は、まだ秘密のまま。
朝、目覚ましが鳴る。
私は今日も窓の外を覗く。
俺は今日も窓を見上げる。
「おはよ、薫くん」
「…よぉ」
End