第7章 テニスのお供に 〜海堂薫〜
結局、ごく普通の、動きやすい格好になったけど。
白のスニーカーにゆるっとしたデニム、七歩袖のロンTにリュック。
たぶん、地べたに座り込んだりする…よね?
スキニーだと膝がしんどくて動きにくいし、ということで汚れても良さそうな、かなりスポーティーなスタイルになりました。
うん。
デートっぽくない。
けど、TPOってやつにはあってるはず。
うんうん、だって別にカップルじゃないしね。
友達だもん。
変に気合い入ってたら引かれちゃう……特に海堂くんはその辺り厳しそうな気がするんだよね。
もちろんパンプスなんて履いていかないけどさ。
ぺたんこ靴でもちょっと走りにくいし。
と、なんだかよくわからないけど言い訳を頭の中で並べ立ててしまう自分に気づいて、はっとする。
(あれ? なんでこんなに必死になってるんだろ?)
駅周辺地図の脇にある鏡の中の私は前髪を一生懸命整えていた。
(…何やってんだか)
一瞬にして馬鹿らしくなって、私は再びスマホに視線を落とす。
『もう着く』
返信はせずに改札の方に体を向けると、地下の階段から海堂くんが上がってくるのが見えた。
海堂くんはいつもとあまり変わりない恰好だった。
(そりゃそうか。いつもスポーティーな感じだもんね)
唯一違うのは、鞄が小さいってことくらい。
ボディバッグっていうやつかな。
授業を受けるわけではないので、当たり前といえば当たり前だけれど。
荷物が少ないのって、本当羨ましい。
いや…私が多いのか。
スマホや財布の他に、ペットボトル飲料は必須だよね。
汗ふきタオルとシート、化粧直しのポーチ。
それから一応、トップスだけは着替えを持ってきた。
脇汗注意。
折りたたみ傘を鞄に入れようかどうか悩んで、やめた。
いつもなら持ち歩くんだけど。
さすがに鞄がパンパンだった。
「おはよ」
「おぅ」
「こっちの出口が近いみたいだよ」
私の言葉に海堂くんがこくんと頷く。
そして。
「…な、なに?」
じっと見られて、思わず身構える。
「いや…そういう恰好、見ねぇから…」
「へ、変?」
「ん…違和感? いつもと違うな、ってだけだ」