第6章 猫カフェのお供に ~海堂薫~
雑居ビルが立ち並ぶその中の一棟へ入っていく。
見知らぬ人と一緒だと物凄く緊張するような小さなエレベーターに乗って、3階へ昇った。
「――ここか…?」
猫のイラストが描かれたウェルカムボードを見つけて、海堂くんがドキドキした様子で私に問いかける。
「うん。まず玄関の扉をちょっとだけ開けて。猫が中から出てきてないかチェックしたら、中の扉は開けずに玄関の中に入るの。それで、玄関の扉をきっちり閉めたかどうか確認してから、中の扉をそっと開けて中に入る。おっけー?」
「…ああ」
緊張した面持ちで二度ほど深呼吸をして、海堂くんが扉を開けた。
中の扉は格子戸になっていて、猫が数匹こちらを見ていた。
「…海堂くん、そこで止まらないで…」
「あ、あぁ、わりぃ」
扉を開けたところでピタッと止まってしまった海堂くんの背中をぐいぐい押して、玄関の中に入る。
扉をきっちり閉めたのを確認して、中にいるスタッフさんにぺこりと頭を下げた。
「こんにちは」
「こんにちは。今日は友達を連れて来ちゃいました」
「お友達、ですか。てっきり彼氏さんかと」
ふふ、と晴れやかな笑みを浮かべるスタッフさん。
私がここを訪れるときには大概シフトインしているようで、すでに常連となった私はちょこちょこと世間話を交わすようになっていた。
「まさか。すっごく猫好きなんですけど、一人でここに来る勇気がないみたいだったので」
「…ども…」
中の扉を開けて入っていくと、猫たちが一斉にこちらを見る。
特別な餌を受付で買うかどうかチェックしているのだ。
…食いしん坊さんばっかり。
普段なら買わないんだけれど、今日は二人で来たのでペア特典としてペースト状の餌が貰える。
「90分コースにする? フリータイムコースにする?」
私はいつもフリータイム。
早めに帰ることなんてほとんどなくて、いつも最後まで居座る。
「フリータイム…?」
「お客様が一杯にならない限りは、18時まで滞在できます。一杯になってしまった場合は120分の制限となります」
「……」
スタッフさんの言葉に海堂くんは腕時計を見た。
「……私は、この後特に予定もないけど」
その一言で、コースが決まった。