第5章 ラーメンのお供に ~海堂薫~
電車の到着音が流れる。
ホームへ入ってきた電車からは、ほとんど降りる人はいなかった。
席もガラガラだったから座ろうと思ったら、海堂くんはそのまままっすぐ反対側の扉の端っこまで進んで、背を預けて収まってしまった。
ああ、そっか。
体育会系だったもんね。
離れるのもなんだか変だし、と私はその隣に立った。
「海堂くんはどこで降りるの?」
「青学前の一駅手前だ」
「そうなんだ」
「…宮脇は?」
「私はその逆、青学前の一駅後ろ」
「へぇ」
流れる外の風景を見ていると、「あ」と海堂くんが小さな声をあげる。
「どうかした?」
「いや…それ」
それ、と言って海堂くんが指差したのは私のつけている右耳のピアス。
女子がつけるにしてはやや大ぶりで、いかつめのデザイン。
「あ、これ? 格好いいでしょ。気に入ってるんだ」
ふふふ、と笑って私はピアスを見せるため首を傾けて海堂くんに体を寄せた。
「ウルフマンだろ、それ」
「よく知ってるね」
「俺のツレが持ってるから…」
「一応メンズブランドってやつだもんね」
シルバーアクセの割と有名なブランドの片耳ピアス。
この前、二十歳のお祝いに、と自分で買ったもの。
「今気づいた」
そう言って、海堂くんは何のためらいもなく私のピアスに触れた。
(わわわ!)
恥ずかしい話、私はこれまで男の人とお付き合いなんてしたことなくて。
ご飯くらいは行ったことあるんだけど。
好きになった人はいなかった。
だから、こういうのは免疫がない。
(ど、動揺したら負け…!)
なぜかそんなことを考えて、私は直立不動のまま、内心は大焦りだったけれど、そんな素振りは一切見せなかった。
「いいな、これ」
「ふふふ。もっと褒めてくれていいよ」
「…うぜ」
「わぁ酷い」
「棒読みすぎだろ」
すっと離れていった手に、私はほっとする。
心臓がどうにかなりそうだった。
ああ、びっくりした。
彼女とかいたら、こういうこと平気でできちゃうようになるものなんだ。
すっごい奥手そうな感じなのに、意外。
「…ん?」
「いや…ウルフマン、持ってないの?」
「ああ。ネックレスとか、邪魔だし。ピアスは開ける気ねぇし」
「そっか」