第5章 ラーメンのお供に ~海堂薫~
海堂くんが降りる駅に電車が着く。
自動ドアがプシューと音を立てて開く。
「今日はありがとう。じゃ、またね」
「ああ」
手を振って送り出せば、海堂くんも片手を挙げてくれた。
あれ、なんだかこれ、傍目に見ればカップルみたい。
自動ドアが閉まる。
電車が動き出しても、海堂くんは降りたところから動かない。
見送ってくれるらしい。
私がもう一度手を振ったら、海堂くんがちょっと笑ったような気がした。
でも、あっという間にその姿は小さくなった。
楽しかった、な。
不思議。
そういえば、男の人と二人っきりでこんな風に楽しかったことってあっただろうか。
なんだかいつも緊張して、無言の時間が怖くてどうでもいいことを延々と喋り倒してしまう。
だからすっごく疲れてしまって、長時間デートができない。
ランチデートからそのまま夕食まで持ちこたえられたことは一度もない。
途中でなんのかんのと言い訳をして逃げるように帰るのだ。
「あ、そっか…」
恋愛対象としてみなくていいから楽なんだ。
そうだよ。
今までは、合コンで知り合った人とか、友達からの紹介とかで、恋愛対象として見なくちゃいけないと気を張っていた。
おお。
男友達って、こんな感じかな。
楽だ。
共学に通ってはいたが、男友達はほとんどいなかった。
うん、いいね、男友達。
他のラーメン屋さんにも付き合ってくれるかな。
行きたいところ、まだあるんだよね。
別にラーメンマニアというわけではないけれど、せっかく近くに美味しいと言われるお店があるのだ。
行かなくては損。
カフェランチも良いけれど、値段が高いし。
おしゃべりするには持って来いだけどね。
ラーメン屋さんは食べたらすぐ出て行かなくちゃダメだからね、女の子同士では中々行けないからね。
うん。
また誘おっと。
「あ」
連絡先知らないや。
また今度聞いとかなくっちゃ。
end