第5章 ラーメンのお供に ~海堂薫~
半チャーハンも頼めばよかったかな。
量が分からなかったから、ラーメンしか頼んでいない。
でも前に座る海堂くんのラーメン鉢の横にあるチャーハンはすごく美味しそう。
むむむ。
この時間帯なら、一人で来ても大丈夫かな。
雰囲気はわかったし。
「…食うか?」
「へ?」
「チャーハン見すぎ」
「うっ…いや、いいよ、また今度来るし」
「一人で?」
「うん。初回さえ乗り越えればもう大丈夫。この時間なら人少ないし。他のラーメンも食べてみたいしね」
「そうか」
チャーハンのお皿を私の目の前に押し出してくれたけれど、私はそれを断って笑いかける。
うん、ここ、人気なだけあってすごく美味しいもん。
来ないと損だよね。
食べ終わって、店を出る。
海堂くんのスタンプカードは埋まっていて、次回は餃子5個おまけらしい。
私もスタンプ集めなくっちゃ。
にやにやしながら財布にスタンプカードをしまう私を、海堂くんが不思議そうな顔で見ているのに気づいた。
「な、なに?」
「いや…宮脇って…ちょっと変だな」
「変?」
「ラーメン屋のスタンプカード、そんなに大切そうにするヤツ初めて見た」
「そうかなぁ?」
だって餃子5個だよ。
めっちゃお得じゃない?
「海堂くんのおかげだよ。ありがとう」
「……」
礼を言うと、海堂くんは呆れたような視線を私に向ける。
けれど何も言わずに駅へと歩き出した。
ホームで電車を待つ間、二人して沈黙も味気ない。
何か話題がないかと私は頭を悩ませた。
「宮脇は…青屋には行ったことあるか」
「あおや? ああ、うん、あるよ」
意外なことに、海堂くんの方から話を振ってきた。
青屋というのは、私達が通っていた高校の近くにあるラーメン屋さんだ。
青春学園高等部の近くのラーメン屋さん、略して青屋。
正式な名前は知らない。
看板にはらーめんや、としか書いていないから。
「あそこ、美味いよな」
「……」
ふ、と笑ってそう言った海堂くんに、私は思わず見惚れてしまった。
だって、笑う、なんて。
滅多にないことだよ。
いや、私が見たことないだけかもしれないけど。
「宮脇?」
「へ、あ、うん。美味しいよね! 懐かしいなぁ。卒業してから全然行ってないよ」
「そうだな…俺も、全然だ」