第4章 恋してみる?~乾貞治~
「…もっと競争率低い人がいいな」
「はぁ? 恋できたらそれでいいんじゃないのか」
「そんなわけないじゃん。恋したんなら付き合いたいじゃん! …多分!」
「多分って」
「だってまだわかんないし」
唇を尖らせながら、疑問に思ったことを口にする。
「ってか、付き合うって何するの?」
「デートじゃないのか」
「でもそれって付き合って無くてもできるよね」
「…手つないだりキスしたり、は彼女としかしないだろ」
「なるほど。じゃあ、そういうことできる人、ってことだ」
「……あー、まぁ、そうなるかな」
「うーん……………無理」
ちょっと想像してみたけど。
どの人ともちゅーなんて、考えられない。
気持ち悪い。
手をつなぐ?
ありえない。
手汗つきそう、お互いに。
「まぁ…好きでもない奴とキスなんて無理じゃないか。好きになったら自然としたくなるもんだと俺は思うけど」
「ほぉ。ご経験が?」
「…ある」
「えっあるの?!」
「宮脇。さすがにそれは失礼じゃないか?」
「だってー、乾だもん」
中学から気づいたらずっと同じクラスだけどさ。
分厚いメガネにいつも手元にノート持ってさ。
変人じゃん?
近寄りたくないじゃん?
でも、彼女いたんだ。
「…今は彼女いないの?」
「ああ」
「ふーん」
そっか。
うーん…乾が、女の子と並んで歩いてるのって想像つかないな。
でも背は高いし…メガネ外したら結構イケメンだし。
っていうかあのテニス部だし。
もしかして、乾ってモテる?
そう考えながらジーッと乾を見つめる。
「なに?」
「いや…おモテになるのかしら、と思って」
「………」
すっと乾の手が伸びて、私の手に触れた。
なに、いきなり。
手の甲をそっと撫でて、きゅっと一瞬握りこまれたかと思えば、すぐに離れていった。
「乾?」
「……嫌だったか?」
「いや? 別に、何とも」
「そうか」
「え、なに? 何なの?」
そろそろ部活に行かないと、と乾が立ち上がる。
「ちょっと、乾」
さっきのは一体何なのよ。
「なぁ、宮脇」
「は、はい?」
乾が、私の机に手をついて私の顔を覗き込む。
おお、距離近い!と思ったのも束の間。
「俺に、恋してみる?」