第4章 恋してみる?~乾貞治~
「ねぇホントだと思う?」
「…いきなり何の話だ?」
すぐ隣の席の乾がメガネをくいっと押し上げながら私を見る。
「だから。恋をすると世界がキラキラするって話し」
「…脈略がなさすぎるだろ。だから、って言われても」
「あ、そっか」
最近、私の友達に彼氏ができて。
その日からなんかもうふわふわしちゃって大変なんですよ。
そんなに世界がキラキラ輝いちゃうもんなのかしら。
「ねぇ、乾のデータには載ってる?」
「…宮脇。お前、俺のデータを何だと思ってるんだ」
「色んな人のプロフィールとか行動パターンとか載ってるやつ」
「テニスのデータしかないに決まってるだろう」
「えっそうなの?! テニスのことしか載ってないの?!」
それはびっくりだ。
誕生日とか好きな色とか嫌いな食べ物はもちろん、朝起きる時間だとかトイレに行く回数だとか知ってると思ってたよ。
「…それじゃ変態じゃないか」
「うん」
「うんって何だ、うんって」
「違うの?」
「違うな」
「そっかぁ。残念」
「残念って…」
仕方ない。それじゃ、乾の考えを聞くしかない。
「乾は、恋したことある?」
「…まぁ、一応」
「おお~」
「おお~って…もう高二だろ。お前だって一回くらいあるだろう」
「ない」
「そうか、ないのか」
「うん、ない」
「…ない?」
「うん」
だから聞いているんだってば。
私には"恋"ってものがわからない。
恋しちゃうと、キラキラしちゃうの?
ふわふわしちゃうの?
寝ても覚めてもその人のことしか考えられないって、本当なの?
「――なら、恋してみるしかないだろ」
「してみようと思ってできるものだっけ?」
「わからん。そうだな…格好良いと思う人は?」
「んんー…手塚くんとか?」
「ふむ。なら、毎日手塚を見つめてみればいいんじゃないか?」
何それ、どういうこと?
私に、手塚くんのストーカーになれってこと?
「尾行しろなんて言ってないだろ。意識するってことが重要なんだ」
「意識…」
「あえて意識することで、それが習慣になったらその内気になって仕方なくなるときが来るんじゃないか、と言うことだ」
「なるほど…」
あれ、でもそれじゃ、もし手塚くんに恋した場合。
その恋が叶うかといえば、そうじゃない。