第11章 xxx 10.指名予約
「送ってくれてありがと」
「おーあんま無理すんなよ」
「うん、わかった」
店先で会話する黒尾と私を、光太郎のまん丸な瞳がジトーッと見つめていた。
外は夕暮れ。橙色の空。
息を潜めていた町が、欲に塗れた人間が、待ち焦がれる夜がもうすぐそこまで迫っている。
そんな午後六時の一幕だった。
「はいはいお二人さーん、フロアで堂々とイチャつかないでくださーい。もれなく拗ねますよー!俺が!」
いつにも増して光太郎の声がデカい。
加えて、黒尾と私の周りをちょこまかと動くものだから、残像が見え……ってそんな冗談はさておいて。
「別にイチャついてねえよ」
「誰がこんなお巡りとなんか」
「お巡りサン、な!」
「あら失礼黒尾ッサン」
黒尾が眉を歪ませて「テメェ……」と低い声を出す。また頭を鷲掴みされそうになったので、うまくかわしてアッカンベーをした。
フロアから縦長に伸びる、狭くてピンク色の廊下。両脇には何枚ものカラフルなドアが並んでる。ふわり、お香の匂いが鼻をくすぐった。
「ったく可愛くねえガキ!」
「黒尾ッサンて、なんか、クロワッサンみたいで旨そうだな……!」
「うるっせえバカフクロウ!」
光太郎と黒尾の声を背に、私は、仕事部屋へと向かう。
さあ、今日もオシゴト始めましょう。