第11章 xxx 10.指名予約
「……い、……おい、カオリ!」
目が覚めると泣いていた。
呼吸は荒く、心臓は痛いくらいに脈打っていて、ティシャツの首元がぐっしょりと濡れている。
「……大丈夫か?」
ちょっと面食らったような顔で、黒尾が私を見ていた。髪がぺたんこ。まるで別人だ。そっか、お風呂……私、この人と一緒に家に帰ってきたんだっけ。
若干の目眩を感じつつ、ゆっくりと身体を起こす。目の奥が随分と重い。
「お前、すげえうなされて……なんか怖い夢でも見た?」
「うん、女装した黒尾がダッシュで追いかけてくる夢……マジで悪夢だった」
「……冗談言ってる場合かよ」
ちょっとむくれ面になりながら、濡れた目元を拭ってくれる強引な親指。
広くて骨張った黒尾の手の甲に、そっと、私の手のひらを重ねる。
「手……カサカサじゃん」
「敏感肌で乾燥肌なんだよ、俺は」
「でも、……あったかいね」
頬に感じる熱が、彼の体温が、触れたところからジワリと広がっていく。
ゆるやかに流れる時間。
香るのはコーヒー豆と、シャンプーの匂い。
枕元に腰かける黒尾と目が合って、ふと、どちらからともなく笑みを溢した。