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(R18) Moulin Rouge (HQ)

第11章 xxx 10.指名予約



 壁の向こうから歌が聞こえる。

 声の主は他でもなく入浴中の黒尾であって、隣近所に聞こえていないか不安になるボリュームなのだけれど。

「(なんだっけ……この曲)」

 聞き覚えのあるメロディだった。

 歌詞までは聞きとれない。でも、たしかに聞いたことがある。何だっけな。うまく思い出せないや。

 ベッドに横たわって、ぼんやりと天井を眺め、記憶の海をさらう。

 その間も黒尾の歌は止むことなく、なんとなく、それが心地いい。深夜帯の仕事で疲れた身体が、ベッドに沈みこんでいくような感覚に包まれる。


「いやだな、……こういうの」


 遠退いていく意識のなか、空中に向かってぽそりと呟いた。誰かと過ごす温もりなんて、もうこれ以上、知りたくないのに。

 だってそうでしょ。

 彼だってそのうち、──ここから出ていっちゃうんだから。温もりを知れば、あとで絶対、ひとりがつらくなる。


「もう……ひとりはやだよ」


 ほとんど声にならなかった。
 黒尾の歌声が急に聞こえなくなる。シン、と静まりかえる部屋。まるで世界が終わったみたい。

 時折聞こえるシャワーの音にひどく安堵したのは、いつのことだったか。

 忍びよる睡魔に意識を渡して、私は、深い深い眠りへと落ちていった。

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